高校生の子どもが無免許で車を運転して交通事故を起こした場合の対応
2026年06月30日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市内に住む40代の父親です。高校2年生の息子が、無免許で私の車を運転し、交通事故を起こしてしまいました。
息子は当然、普通自動車の運転免許を持っていません。私たち親は、息子が車を運転するとは思っていませんでした。ところが、夜、家に置いていた車の鍵を勝手に持ち出し、友人を乗せて運転したようです。
その途中、交差点で相手の車と衝突し、相手の方が骨折して、全治3か月と診断されたと聞いています。警察からは、無免許運転と人身事故の件で息子から話を聞くと言われています。息子は逮捕されるのか、家庭裁判所に送られるのか、少年院に行くことになるのか、とても不安です。
また、相手の方への賠償も心配です。私の車には任意保険が付いていますが、無免許運転なので保険が使えるのか分かりません。相手の方に謝罪したい気持ちはありますが、どう連絡してよいかも分かりません。
親として、まず何をすべきでしょうか。
A、これは非常に重大な少年交通事件です。
高校生が無免許で自動車を運転しただけでも、道路交通法違反として重く扱われます。さらに、交通事故を起こし、相手に骨折・全治3か月のけがをさせている場合には、単なる無免許運転ではなく、無免許過失運転致傷事件として扱われる可能性があります。
まず、親としてすべきことは、次の5つです。
第一に、警察対応の前に弁護士へ相談することです。
第二に、任意保険会社へ直ちに事故報告をすることです。無免許運転であっても、被害者救済の観点から、対人賠償保険や対物賠償保険が使える可能性があります。任意保険が使える場合には、被害者への治療費、慰謝料、休業損害、車両損害などの民事賠償は、原則として保険会社の担当者を通じて進めるべきです。
第三に、被害者への謝罪・被害弁償を検討することです。ただし、親が直接被害者へ連絡して「警察に厳しく言わないでほしい」「子どもの将来があるので許してほしい」などと伝えることは避けるべきです。被害者に圧力をかけたと受け取られるおそれがあります。
第四に、車の鍵の管理、友人関係、深夜外出、スマートフォン、SNS、家庭内の監督体制を直ちに見直すことです。
第五に、家庭裁判所での調査を見据えて、親子で事故の重大性と再発防止策を具体化することです。
この事案では、「初めてだから大丈夫」「未成年だから軽く済む」と考えるのは危険です。
相手が全治3か月の骨折をしている以上、被害結果は重いです。無免許運転であることも悪質性を高めます。事故態様、速度、信号、一時停止、同乗者の有無、車の持ち出し経緯、親の管理状況、被害者対応、保険対応、学校生活、家庭の監督体制によって、処分の見通しは大きく変わります。
できるだけ早く、少年事件と交通事件に対応している弁護士に相談してください。
【解説】
1 高校生の無免許運転は重大な道路交通法違反です
道路交通法は、運転免許を受けないで自動車を運転することを禁止しています。
高校生であっても、無免許で車を運転すれば、道路交通法違反です。
「家の近くだけ」
「少しだけ運転した」
「親の車を借りただけ」
「友人に頼まれた」
「運転できると思った」
という理由は通用しません。
自動車は、使い方を誤れば人を死傷させる危険な道具です。運転免許は、単なる身分証明書ではなく、道路交通上の知識・技能・適性を確認する制度です。免許を持たない高校生が車を運転すること自体、交通社会では非常に危険な行為と見られます。
2 相手が骨折・全治3か月の場合、軽い人身事故ではありません
交通事故で相手にけがをさせた場合、自動車運転処罰法上の過失運転致傷が問題になります。
さらに、無免許運転中に人身事故を起こした場合には、無免許運転による加重が問題になります。
今回のように、相手が骨折し、全治3か月と診断されている場合、軽いけがとはいえません。
被害者は、治療、通院、入院、手術、仕事や学校への影響、家事・育児・介護への支障、後遺障害の不安などを抱えることがあります。
少年事件であっても、家庭裁判所は、被害者がどのようなけがをしたのか、被害者対応がどうなっているのかを重視します。
親としても、「子どもの将来が心配」という気持ちだけでなく、まず被害者のけがと生活への影響に向き合う必要があります。
3 無免許だから直ちに危険運転とは限りません
無免許で事故を起こすと、「危険運転になるのではないか」と不安になる方がいます。
無免許運転であることは重大ですが、無免許だから直ちに危険運転致傷罪になるわけではありません。
危険運転致傷罪が問題になるのは、たとえば、進行を制御する技能を有しない状態で走行した、制御困難な高速度で走行した、赤信号を殊更に無視した、通行禁止道路を危険に走行したなど、法律上の要件に当たる場合です。
もっとも、免許を持たない高校生が、運転経験もないのに友人を乗せて運転し、速度を出し、信号や一時停止を無視し、ハンドルやブレーキ操作を誤って事故を起こしたような場合には、通常の過失運転致傷よりも重く見られる可能性があります。
そのため、事故態様の確認が重要です。
・どの道路を走っていたのか
・速度はどの程度だったのか
・信号や一時停止を守っていたのか
・スマートフォンを見ていなかったか
・同乗者と騒いでいなかったか
・運転経験はあったのか
・過去にも無免許運転をしていないか
・親の車をどう持ち出したのか
これらを正確に整理する必要があります。
4 少年事件として家庭裁判所に送られる可能性があります
高校生が事件を起こした場合、多くは少年事件として扱われます。
警察で取調べを受けた後、事件は検察庁を経て、家庭裁判所に送られる可能性があります。
家庭裁判所では、事故そのものだけでなく、少年の生活状況、家庭環境、学校生活、交友関係、非行歴、親の監督体制、被害者対応、再発防止策が調査されます。
今回のような事件では、家庭裁判所調査官から、次のような点を聞かれる可能性があります。
・なぜ車を運転しようと思ったのか
・誰が運転を提案したのか
・誰が同乗していたのか
・親の車の鍵をどう持ち出したのか
・以前にも無免許運転をしたことがあるのか
・SNSや友人関係で危険な誘いがなかったか
・事故で相手がどのようなけがをしたと理解しているか
・被害者にどう謝罪するつもりか
・親はなぜ鍵の管理をできなかったのか
・今後、同じことを防ぐために家庭で何を変えるのか
家庭裁判所では、「本人が反省しています」だけでは足りません。
なぜ無免許運転に至ったのか、親が何を見落としていたのか、今後どう防ぐのかを、具体的に説明できる必要があります。
5 観護措置、少年鑑別所の可能性
重い少年事件では、家庭裁判所に送られた後、観護措置が取られ、少年鑑別所に収容されることがあります。
今回のように、無免許運転で相手に全治3か月のけがを負わせた場合、観護措置の可能性を軽く見るべきではありません。
特に、次のような事情がある場合には注意が必要です。
・被害者のけがが重い
・事故態様が危険
・速度超過、信号無視、一時停止違反がある
・同乗者がいる
・友人と口裏合わせをするおそれがある
・スマートフォンやSNSに証拠がある
・過去にも無免許運転をしている
・家庭での監督が不十分
・親が事実を軽く見ている
・被害者対応が進んでいない
・学校生活や生活態度に問題がある
観護措置を避けるためには、家庭で確実に監督できること、証拠隠滅や口裏合わせをしないこと、被害者対応を進めていること、学校や家庭での受け皿があることを示す必要があります。
6 18歳の高校生は特定少年として扱われることがあります
高校生でも、18歳になっている場合があります。
18歳、19歳の少年は、少年法上「特定少年」として扱われます。特定少年も少年事件の対象ですが、17歳以下の少年とは異なり、刑事裁判、実名報道、前科の問題がより現実的になります。
重大な交通事件で、家庭裁判所が刑事処分相当と判断すれば、検察官送致、いわゆる逆送が問題になることがあります。
特定少年の場合には、「高校生だから大丈夫」とは考えないでください。進学、就職、資格、報道、前科のリスクを踏まえた対応が必要です。
7 親が車を貸した場合、親にも刑事責任が問題になります
今回の相談では、息子が親に無断で車の鍵を持ち出したという設定です。
この場合、親が息子に車を提供したわけではないのであれば、親が直ちに無免許運転の車両提供罪に問われるとは限りません。
しかし、親が、
・子どもが無免許であることを知りながら車を貸した
・「少しだけなら運転してよい」と言った
・駐車場内や近所で運転させていた
・以前から無免許運転を黙認していた
・鍵を自由に使える状態にしていたうえ、運転することを知っていた
という場合には、親自身にも刑事責任が問題になる可能性があります。
また、刑事責任までは問われなくても、家庭裁判所では、親の鍵管理や監督体制が厳しく見られます。
親としては、「勝手に持ち出したから親は関係ない」と言うだけでは不十分です。
・鍵をどこに保管していたか
・車を誰が使える状態だったか
・過去に子どもが車に興味を示していなかったか
・深夜外出や友人関係を把握していたか
・事故後に鍵管理をどう変えたか
を説明できるようにする必要があります。
8 車に同乗していた友人にも問題が生じることがあります
高校生の無免許運転では、友人が同乗していることがあります。
単に同乗していただけで、直ちに全員が同じ責任を負うわけではありません。
しかし、同乗者が、
・無免許であることを知っていた
・運転を頼んだ
・「運転してみろ」とあおった
・車を持ち出すことに協力した
・事故後に逃げるよう促した
・口裏合わせをした
という場合には、道路交通法違反や共犯、証拠隠滅的行動が問題になる可能性があります。
親としては、同乗者の親に感情的に連絡し、「うちの子を巻き込んだのではないか」「話を合わせてほしい」などと言うことは避けてください。口裏合わせと見られる危険があります。
同乗者との関係は、弁護士を通じて慎重に整理すべきです。
9 被害者への対応
被害者が骨折し、全治3か月のけがをしている場合、被害者対応は極めて重要です。
治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料、後遺障害、車両損害などが問題になります。
まず、任意保険会社に事故報告をしてください。無免許運転であっても、被害者救済の観点から、対人賠償保険や対物賠償保険が使える可能性があります。実際に使えるかどうかは、保険契約、約款、運転者と契約者の関係、車の使用状況によって異なります。
保険会社が対応する場合には、民事上の賠償交渉は、原則として保険会社の担当者を通じて進めます。
親が独断で被害者に現金を渡したり、「これで示談にしてください」と言ったりすることは避けるべきです。後から保険対応や示談内容に問題が出ることがあります。
一方で、保険会社が賠償対応をしているからといって、加害者側の謝罪が不要になるわけではありません。
少年事件では、本人と保護者が被害者のけがの重大性を理解し、謝罪の意思を持っているかが重要です。謝罪文を作成するか、弁護士を通じて謝罪の機会を申し入れるかを検討します。
ただし、被害者が直接連絡を望まない場合には、その意思を尊重する必要があります。
10 親の民事責任
被害者から見ると、運転していたのが高校生であっても、損害賠償は現実に必要です。
高校生本人に十分な資力がない場合、親や車の所有者が責任追及を受ける可能性があります。
特に、親名義の車で事故を起こした場合には、親が自動車の所有者・管理者として責任を問われることがあります。いわゆる運行供用者責任が問題になります。
また、子どもが無免許で運転する危険を親が予見できたのに、鍵管理や監督を怠ったと評価される場合には、親の過失も問題になり得ます。
したがって、親としては、刑事・少年事件だけでなく、民事賠償と保険対応も同時に進める必要があります。
11 学校への対応
高校生が無免許運転で人身事故を起こした場合、学校への対応も問題になります。
逮捕、警察取調べ、家庭裁判所調査、観護措置、被害者対応により、欠席が必要になることがあります。事故が報道される、又は地域で広まる可能性もあります。
学校に対しては、どの段階で、どこまで説明するかを慎重に検討すべきです。
学校へ説明する場合には、感情的に「大変なことをしました」とだけ話すのではなく、
・現在、警察対応中であること
・被害者に大けがをさせた重大な事故であること
・保険会社と弁護士を通じて被害者対応をしていること
・家庭で鍵管理、外出、友人関係を見直していること
・本人に反省と再発防止を促していること
・学校生活の継続について相談したいこと
を整理して伝えるべきです。
退学や自主退学については、安易に判断しないでください。
事件直後は親子ともに混乱しています。学校側の処分や進路への影響についても、弁護士と相談しながら対応すべきです。
12 証拠保全と事実関係の整理
この種の事件では、事故態様と車の持ち出し経緯が重要です。
保全すべき資料としては、次のようなものがあります。
・ドライブレコーダー映像
・事故現場の写真
・車両損傷写真
・車の鍵の保管状況
・誰がいつ鍵を持ち出したか
・防犯カメラ、駐車場カメラ
・スマートフォンの位置情報
・友人とのLINE、SNS、通話履歴
・同乗者の有無
・事故前後のメッセージ
・保険証券
・車検証
・自賠責保険証明書
・任意保険の契約内容
・被害者対応の記録
・警察からの連絡内容のメモ
スマートフォンの履歴を消したり、友人に口裏合わせを頼んだりしてはいけません。証拠隠滅を疑われ、観護措置や処分に悪影響を及ぼすことがあります。
13 家庭として作るべき再発防止策
家庭裁判所に対しては、具体的な再発防止策を示す必要があります。
たとえば、次のような対策が考えられます。
・車の鍵を施錠できる場所に保管する
・スペアキーの所在を確認する
・スマートキーを玄関やリビングに放置しない
・車両の使用管理を親が徹底する
・深夜外出のルールを作る
・友人関係を見直す
・スマートフォン、SNSでの危険な誘いを確認する
・運転への興味があるなら、免許取得年齢まで運転しないことを明確にする
・無免許運転の危険性について親子で学ぶ
・学校やカウンセラーと連携する
・被害者への謝罪文を作成する
・アルバイト代や小遣いから被害弁償の一部を負担させる
・交通事故被害者の苦痛を理解させる教育的機会を作る
重要なのは、「厳しく叱りました」ではなく、「具体的に二度とできない仕組みを作りました」と言えることです。
14 処分の見通し
処分の見通しは、事案によります。
初犯で、車の持ち出しが一回限りで、事故後に逃げておらず、被害者対応と保険対応が進み、家庭の監督体制が整っている場合には、少年院送致を避け、保護観察を目指す余地があります。
一方で、
・被害者のけがが重い
・事故態様が悪質
・逃走、ひき逃げがある
・友人と口裏合わせをしている
・過去にも無免許運転をしている
・親が事実を軽く見ている
・被害者対応が不十分
・家庭の監督が期待できない
という場合には、重い処分が検討される可能性があります。
特に、全治3か月の骨折という被害結果は軽視できません。
少年事件だからこそ、早い段階で被害者対応、保険対応、家庭内の再発防止策を整える必要があります。
15 弁護士ができること
弁護士は、次のような対応を行います。
・警察取調べ前の相談
・逮捕、勾留、観護措置への対応
・事故態様の整理
・無免許運転、無免許過失運転致傷、危険運転該当性の検討
・供述調書作成時の注意点の説明
・同乗者、友人関係の整理
・保険会社との連携
・被害者への謝罪、被害弁償、示談対応
・家庭裁判所調査官への対応準備
・親の監督計画作成
・学校への説明方針の検討
・観護措置回避の意見書作成
・少年審判での付添人活動
・不処分、保護観察、少年院回避を目指す活動
・18歳以上の特定少年の場合の逆送、刑事裁判、報道リスクへの対応
高校生の無免許運転事故は、親だけで対応するには重すぎる事件です。
警察対応、被害者対応、保険対応、学校対応、家庭裁判所対応を同時に進める必要があります。
まとめ
高校生の子どもが無免許で車を運転し、相手に骨折・全治3か月のけがをさせた場合、極めて重大な少年交通事件です。
無免許運転だけでなく、無免許過失運転致傷が問題になります。事故態様によっては、より重い評価を受ける可能性もあります。
親として大切なのは、
・警察対応の前に弁護士へ相談する
・任意保険会社へ直ちに事故報告をする
・被害者対応を保険会社・弁護士を通じて進める
・車の鍵の管理を直ちに見直す
・友人関係や深夜外出を確認する
・スマートフォンやSNSの証拠を消さない
・学校対応を慎重に行う
・家庭裁判所に説明できる再発防止策を作る
ことです。
薬院法律事務所では、少年の交通事件、無免許運転、人身事故、重傷事故、家庭裁判所対応、被害者対応、保険会社との連携について相談を受けています。
「高校生の子どもが無免許で車を運転した」
「人身事故を起こして相手に大けがをさせた」
「警察から親子で呼び出された」
「家庭裁判所や少年院が心配」
「保険が使えるか分からない」
「被害者にどう謝罪すればよいか分からない」
という場合には、早めにご相談ください。
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